KTSでは、今回初めてドキュメンタリー映画を制作しました。
公開を目前に控えた、映画「テレビで会えない芸人」の魅力をたっぷりお伝えしました。
松元ヒロという芸人を見つめる
2021年12月。師走の東京。
熱気あふれる会場で大きな笑いを誘っているのは、
鹿児島出身の芸人で映画の主人公。
松元ヒロさん、69歳です。
政治や社会問題をネタに、笑いで一言モノ申す。
時代を見つめ、弱者の目線から権力者を笑う。
その芸は、あの立川談志や永六輔にも愛されました。
かつては、社会風刺コント集団『ザ・ニュースペーパー』のメンバーとして、テレビの世界で活躍していました。
しかし、1998年、46歳の時に『ザ・ニュースペーパー』を脱退。
『少数派から見た笑いをやりたい。だけどテレビはそれを許さない』
自由な表現の場を求め、ヒロさんはテレビの世界を去りました。
以来、主戦場を舞台へと移し、スタンドアップコメディアンとして活動を続けています。
人をひきつける魅力をもっているのに、
テレビは、その芸を敬遠するー。
それは、なぜなのか。
私たちは、2019年の春から松元ヒロさんにカメラを向けました。
時代は、平成から令和へと変わり、世界中を新型コロナが襲いました。
変化の激しい時代の中で、テレビを去った芸人は何を思い、何を伝えるのか。
ヒロさんは、カメラの前で語ります。
「テレビは空気を反映する。しかし、その昔は戦争になったこともある。」
ヒロさんの姿を追い続けると、今の不寛容な社会やモノ言えぬ私たちテレビの実像が見えてきました。
ジャーナリストが見たヒロさん
弱者の視点での「笑い」を盾に、モノを言い続ける松元ヒロさん。
その芸に注目する2人のジャーナリストがいます。
東京新聞・望月衣塑子記者と、テレビ・ネットメディアでの発信を続けている堀潤さんです。
(望月さん)
やはり根本に民主主義とは何か。
弱い人の立場に、弱い人たちがどういう声をあげてるのかってことに、徹底的に耳を傾け続けてきた芸人さんだなーと思いました。
権力をチェックしたり、批判したりする。そして、発言するというメディアが存在しなくなるということは、これは、ひとつの民主主義の危機だと思うんですね。
言いたい、伝えたい、両論併記では済ませたくないんだみたいなことが、明確な問題意識としてあったから、テレビに出られなくてもいい、でも言いたいことを言ってこうという覚悟ができた。
世界は違うけど、同じくらいの覚悟で、私もジャーナリストとして取材を進めないといけないし、ほんと再認識させられましたね。
(堀さん)
すごい勇気をもらいますよね。
みんなが感じていたりとか、みんながうすうすそう思っているけど、おっかなくて言えないということを、思ってるんだったらちゃんと言おうかって。
ちゃんと言葉にして、私だけじゃないんだ、僕だけじゃなかったんだ、みんなでどうすればいいか考えようよという。
そういうことを松元さんは、ご自身のユーモアというものを使いながら、投げかけてるんだなって。
やっぱり、目指すべき社会観・世界観というのは、私こう思うよ、オレ違うけどね。っていう風にお互いが言い合えるようなものを。
今僕らは一人一人が発信できる時代だからこそ、何のために伝えるんだろうとか、何のために発信するんだろうかとか、みたいな責任をもっと実感できるような成熟を目指したいなと思っています。
自分自身も。いつも問われてるなと思うんです。
何のために、伝えるのかー
言論と表現の自由。
何となくモノが言いづらいこの時代に、松元ヒロという芸人の存在は大切なことを問いかけています。
映画製作の舞台裏
KTSでは、芸人・松元ヒロさんを2年あまりかけて取材し、これまで30分と50分の2本のドキュメンタリーを放送しました。
松元ヒロさんを追ったドキュメンタリー番組「テレビで会えない芸人」は、大きな反響を呼び、ギャラクシー賞など数々の放送賞を受賞しました。
地方で制作した小さな番組は、さらに多くの人たちへ届けるため追加撮影をし、ドキュメンタリー映画へ挑戦することに。
そしてこの度、81分の映画を完成させ、公開を迎えることになりました。
映画制作では、さまざまな人たちがチカラを貸してくれました。
【音楽担当:鹿児島出身の音楽家・吉俣良さん】
音楽を担当したのは、「篤姫」や「ドクターコトー診療所」など話題のドラマ・映画音楽を手掛けてきた吉俣良さんです。
(吉俣さん)
『松元ヒロという芸人さんを世に知らしめることができるのはすごくうれしいし、あんな素敵な芸人さんが鹿児島出身というのは嬉しい。参加できてよかった。
吉俣さんは、これまで15年以上、ヒロさんのステージに足を運んでいるといいます。
笑いで社会に問い続けるヒロさんのひたむきな姿を見続けてきた吉俣さんは、今回、『テレビで会えない芸人』のテーマに、こんな思いを込めました。
(吉俣さん)
ヒロさんってロックで登場するんで、ヒロさんのテーマつくるならロックっていうのが普通なんだけど、俺のなかでは、それだと側面しか捉えていない気がして。
イケイケのヒロさんと、芸人としての影とかもしょったうえで前を向いて歩いてるのをイメージしてつくった。
松元ヒロってどんな人だろうって見てもらえれば、きっと見たあとにはファンになると思う。
今回、音楽製作を依頼したところ、吉俣さんはすぐにテーマ曲が浮かんできたとのことです。
ただ前向きなだけでなく、悲哀を感じながらも進んでいく、ヒロさんの人生そのものを音楽に込めたタンゴだそうです。
【楽曲製作:ハマ・オカモトさん】
人気ロックバンドOKAMOTO’Sのベーシスト。
鹿児島にゆかりのあるハマさんは、地方局の新たな挑戦に快く参加してくれました。
(ハマさん)
これがさらに音が重なって劇場でってことですもんね。めちゃくちゃ楽しみですね。
映画のサウンドトラック・劇伴に参加できるっていうのはめったにないんで。いい経験でした。
【プロデューサー:東海テレビ・阿武野勝彦さん】
『人生フルーツ』や『ヤクザと憲法』といった数々の話題作を世に送り出してきた、ドキュメンタリー界の奇才。
局の垣根を越え、プロデューサーとして参加してくれました。
映画の感想
東京新聞の望月衣塑子記者と、ジャーナリストの堀潤さんは映画の感想を次のように語ります。
(望月さん)
「変えるべきでないものを自分に刻め」、「最後は自分を信じて突き進め」、というのを彼の芸や日々の発言から感じた。
彼がいるから、私も自分の守りたいものを守りたい。
(堀さん)
松元さんはこんなに発信しているのに、「沈黙している暇ないよ」って。
「あっという間に民主主義なくなっちゃうよ」って。
芸人・松元ヒロの生き方と笑いの哲学から、不寛容な時代を生き抜くヒントが見つかるかもしれません。
そして、この作品には、もう一人鹿児島出身の方が力を貸してくれているんです。
2008年に『つみきのいえ』でアカデミー賞に輝いた加藤久二生(かとう・くにお)監督です。
映画で本編前に表示されるクレジットがありますよね。
そのKTSのクレジットを、加藤監督がアニメーションで製作してくれました。
『人類の進化』をテーマにした壮大な作品でした。
ぜひ、そちらにも注目していただきたいと思います。
鹿児島では全国に先駆けて、あす1月14日から「鹿児島ミッテ10」と「ガーデンズシネマ」で上映です。
「鹿児島ミッテ10」では
1月14日 午後1時半から松元ヒロさんの舞台挨拶が、
15日は吉俣良さんの舞台挨拶があります。
ぜひ、映画製作の裏話などもお楽しみください。