伊敷長なすや国分だいこんなどの「伝統野菜」。古くから特定の地域で栽培され、親しまれてきました。しかし市販品種の普及や生産者の高齢化などで、今存続が危ぶまれているものがあるそうです。この現状をなんとかしようと鹿児島大学農学部が動き出しました。伝統野菜の魅力とそれを未来につなぐ若者の姿を追いました。
鹿児島の伝統野菜を守るプロジェクト
白いなすに、黄色いすいか。形や色がちょっと変わっている野菜。これらは「鹿児島の伝統野菜」です。鹿児島の伝統野菜とは、おおむね・昭和20年以前から存在し、特定の地域で栽培されている野菜のこと。吉野にんじんや伊敷長なすなど、地域の名前がついているものもあります。あの桜島大根や安納芋も、実は伝統野菜なんです。野菜本来の強い香りや甘み・うま味が魅力と言われている伝統野菜。
しかし、栽培に時間がかかることや、生産者の高齢化が進んでいることなどから、今絶滅の危機が叫ばれている品種が出てきています。そんな中この現状をなんとかしようと、鹿児島大学部農学部が動き出しました。産効率のいい市販品種の普及や、生産者の高齢化が進んだことが要因だと言われています。鹿児島大学部農学部の技術職員、中野さんもこの現状に危機を感じていました。
「もう風前の灯火。鹿児島の人には地元の野菜、どんなものがあるか知ってもらいたいし、伝統野菜がなくなることは食文化がなくなることですから。食文化を守るためにも、鹿児島の伝統野菜を守ることは大事かなと。」
伝統野菜を守りたい 鹿児島大学農学部の挑戦
なんとか伝統野菜を守りたい。鹿児島大学農学部の挑戦が始まりました。このプロジェクトに特別な想いを寄せている人、田畑耕作さん78歳。約20年にわたり伝統野菜を研究してきたエキスパートです。これまで県内各地をまわって集めた種を、今回大学に寄付しました。 この日、大学で行われた田畑さんの講演。伝統野菜の種類や特徴などを学生達に説明します。伝統野菜の栽培は学生達にとって初めての経験なので、わからないことばかりです。
伝統野菜の栽培、収穫
白なすと呼ばれている伝統野菜はだいぶ成長していました。伝統野菜のなすの多くは市販の品種と比べとげや葉が多く、手入れが大変。またなりはじめるのも1ヶ月ほど遅く手間と時間がかかります。それでも学生達は楽しさも感じていました。
「ふつうのなすより葉っぱも大きいし、実もなりにくいけど、見たことないようななすがとれるので、すごい楽しいです。未知です。」
そう話す松尾さんが、お気に入りの伝統野菜「真白なす」を見せてくれました。白なすは薩摩藩の農業に関する書物に載っていたことから、既に江戸時代には栽培されていたものと考えられています。
学生達の愛情をたっぷり受けて、伝統野菜はすくすくと成長しています。約1ヶ月後、伝統野菜の収穫にお邪魔しました。鹿屋に伝わる伝統のとうがらし、花岡コショウや日置の養母スイカに真白ナス。どの野菜もしっかりと実を結んでいました!!種を寄付した田畑さんの顔にも笑みがこぼれます。
「なかなかならなくて大変だったけど、葉っぱの量もすごいし、わさわさだけど。食べたらめっちゃおいしかったし、育ててよかったと思いました。」
今回完成した伝統野菜は23種類!大事な種が未来に繋がりました。
伝統野菜を使ったメニュー
7月下旬。学生達はある場所を訪ねました。鹿児島市の飲食店「ユイノヤ」です。伝統野菜の魅力に触れた学生達が、今度はその魅力を多くの人に伝えられたらと、伝統野菜を使った料理の提供ができないか相談にきたのです。10日後、新しいメニューができたとの知らせを受け、再びユイノヤを訪ねました。出来上がった特別メニューは、茄子の甘みをストレートに感じられる「冷やし焼き茄子」に、濃厚な味わいの「白茄子の味噌マリネ」。お客さんの反応は、味がしっかりしていて美味しい、今までの野菜と全く違って面白いなど大好評でした。伝統野菜を使った2種類のメニューは来月9月いっぱいまで提供される予定です。
冷やし焼き茄子 500円(税込) 白茄子の味噌マリネ 650円(税込)
今年秋から冬に鹿児島大学農学部が開催する伝統野菜作り教室」で、一般の方も伝統野菜を育てることができます。
鹿児島大学農学部附属農場 TEL:099-285-8771