奄美大島・離島の津波防災
鹿児島大学の井村 隆介准教授とともに、防災に関するさまざまな知識を深める「井村 隆介准教授の防災をマナブ」です。
全国で最も離島の人口が多い鹿児島県。島の生活を守るために本土とは違った津波の防災が必要です。離島ならではの課題とは…?
(2020年1月14日 放送)
過去にも押し寄せた津波
●気象予報士・渡司陵太
奄美大島にやってきました。
今回はどんなことを学ぶんしょうか?
●鹿児島大学・井村隆介准教授
鹿児島県には奄美大島も含めてたくさんの離島があるわけですけども、地震・津波の防災について学んでみたいと思います。
海に囲まれた離島。過去に様々な津波が押し寄せています。
こちらは1960年のチリ地震の写真です。
高さ4.4mの津波が名瀬の街を襲いました。
津波の痕跡が土の中に残っているとのことで、太平洋に面した小湊地区で、海岸近くの地面を掘ってみました。
深さ50cmほど掘ってみると…
●気象予報士・渡司陵太
色が違う層がありますね
●鹿児島大学・井村隆介准教授
明るい色の地層が5~6cmあるのがわかると思います。この部分は白いままですので、一気に海から砂がやってきたことを示しています。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
これは過去の津波の堆積物と判断しています。
井村准教授の調査ではおよそ3000年前の津波でできた地層と推定されるそうです。
●気象予報士・渡司陵太
過去にこういう津波があったということは、今後も津波が考えられるんですか?
●鹿児島大学・井村隆介准教授
3000年ぐらいは同じ規模の津波が来ていないことになるわけですけど、逆に考えると津波がないままもう3000年ぐらい経ってしまっていることになります。近い将来にこれと同じような規模の津波が起こってもおかしくないです。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
「想定外をなくす」と考えるうえで、これは想定内に入れておかなければならないと思います。
津波 離島の物流がストップ
大きな津波が来た場合、どのようなことが想定されるのでしょうか?
奄美大島で一番多くの貨物を取り扱う名瀬港を例に考えます。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
離島の物流は船に頼りきっているわけです。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
津波で港がやられることになると、本当に島にとって致命的です。津波とともに液状化現象も起こりますから、岸壁そのものが壊れてしまう。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
津波が街まで入って、波が引いて、この海の中に「津波がれき」が入ると、船が入れないことになります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
食料はヘリコプターや飛行機で運ぶことができますが、問題は「燃料」ですね。ガソリンや軽油は、船でしか運べません。復旧・復興しようとしても、車も使えない、重機・ブルドーザーなども使えないことになります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
港の津波防災というのは、離島の場合は本土以上に考えないといけません。
津波 発電ができなくなるおそれ
井村准教授は他にも津波対策が重要な施設があるといいます。
島の電力を支える発電所です。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
離島に限らず火力発電所というのは海のそばにあります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
タンカーで燃料を持ってきて、それをもとに火力発電をしています。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
津波で(岸壁の)施設が壊されてしまうと燃料を供給できず、発電ができないことになります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
津波が3mあがってくると、発電所の施設の1階部分はほぼ水没してしまうことになります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
停電するだけではなくて、電気を作ることすらできないことになります。
島全体が電力を失うことになりかねないのが離島の津波の怖さです。
県によると南海トラフ地震で奄美大島は5mを超える津波が想定されています。
九州電力は津波がくる場合、今ある設備の範囲で、扉や窓を閉めるなどの対策を定めていますが、万全ではない状態です。
このため今後は、発電機などがある主要な建物に水が入らないよう止水扉を設置するなど被害を受けにくくする対策を検討しているそうです。
離島の津波は みんなで考えるべき課題
外とのつながりが限られた離島。
津波に対する様々な課題が浮かびかがります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
離島は閉ざされた空間で、船とか航空機を使わないと外から物が入らないという現実があります。
●鹿児島大学・井村隆介准教授
鹿児島は離島がたくさんあって、そこに住んでいる方も非常に多いわけですから、これから本当にみんなで考えていかなければならないと思います。
(2020年1月14日 放送)